<第1回
在宅チーム医療栄養管理研究発表会>
日 時: 平成 18年12月3日(日) 13:00〜17:00
場 所: 社会福祉法人浴風会
高齢者認知症介護研究・研修センター2F
今年4月の改正介護保険に、在宅チーム医療栄養管理研究会が常々望んでいた管理栄養士の在宅への進出、他職種協働によるチーム医療・ケアの推進が掲げられました。その中の栄養ケア・マネジメントをシステム化し、効果を上げるためには管理栄養士の積極的な取り組みが急務であると考えます。そこで、在宅チームケアに関わる専門の先生方による講演会と、症例検討等による発表会を開催しました。
第一部
【基調講演】摂食・嚥下外来に取り組んで
(甲斐歯科医院院長 山川 治氏)
経口維持加算は摂食機能障害や誤嚥が認められる者に、多職種協働で摂食・嚥下機能に配慮した「経口維持計画」を作成し、特別な管理を行う場合に加算される。
○経口移行加算(経管栄養の者を対象)28単位/日
○経口維持加算 I(著しい誤嚥が認められる者を対象)28単位/日
○経口維持加算 U(誤嚥が認められる者を対象)5単位/日
(算定は原則180目まで)
医師及び歯科医が診断すれば開始できるので、「食べているから大丈夫」ではなく、「しっかり噛めているか、口の中に食物が残っていないか、舌は汚れていないか」などを観察し、介護予防につなげていくことが大切。
最近では、口腔ケアをしっかり行い、口から食べることが、全身によりよい効果をもたらすという報告も多くされるようになっている。
【特別講演】在宅NSTに取り組んで
(高岡駅南クリニック院長 塚田 邦夫氏)
医師として創傷治療に邁進していたが、なかには良いとされる治療を施しても悪化してしまうケースがあった。創傷においては、「栄養改善」「原因療法(体圧分散)」「局所療法」の総合的なケアが必要であり、クリニックではあるが管理栄養士も常勤させ、在宅への訪問診療・栄養指導にも出向いている。
在宅NSTを進めていくには、地域の中で多職種が連携することが必要。多くの職種がケアに関わることになるが、処置法・治療目標などの統一が難しい。当院は看護師が行っているが、本来はケアマネジャーが役割分担をしっかり取りまとめるべきところ。課題も多いが、2006年3月に「高岡在宅NST研究会」を発足し、地域での連携に取り組んでいる。
第二部
【一般演題】
1)居宅療養管理に関する事例
(高岡駅南クリニック 藤永 香純氏)
胃がん、脳梗塞を発症し、左半身に麻痺が残りほぼ寝たきりの69歳男性。好き嫌いが多く、主介護者である妻は食事作りが得意ではない。仙骨部褥創治療の開始で、訪問看護及び訪問栄養指導開始となる。
「スリーステップ栄養アセスメント」を用いて栄養評価し、メニュー提案、補助食品の紹介、口腔ケアなど行い、水分量・エネルギー量など確保できるようになってきたが、褥創は治癒と再発を繰り返し、嚥下障害・低栄養・脱水のリスクが改善しない。
会場から、歯の治療を行い食べやすい口を作ることや、家族のメンタル面を支える声のかけかたなどがアドバイスされた。
2)Mini Nutritional Assessment(MNA:簡易栄養状態評価表)に
アルブミン併用4群分類を組み合わせた栄養評価について
(特別養護老人ホーム豊かな里 丸山 たみ氏)
高齢者の低栄養リスク者を簡便にスクリーニングするために欧州で開発された栄養評価法「MNA」を、「スリーステップ栄養アセスメント」とも対比しながら実際に使用した結果を報告。
MNA法と血清アルブミン値を組み合わせた指標を栄養ケア計画書とし、食べることを支援する様々な職種に明示し、利用者への援助計画・方向性の共通指標として使用している。
口腔ケア・摂食嚥下に関してはあまり重要視されていないので、こうした項目も加えながら、よりよい使い方をしてはどうかとの意見があった。
3)多発性脳梗塞に起因する
誤嚥性肺炎患者を在宅栄養管理に移行できた一例
(北里研究所病院 冨永 晴郎氏)
黒色物を嘔吐し救急車で運ばれてきた90歳女性。入院後、静脈栄養管理を行ったが、家族が在宅での栄養管理を希望したため、経腸栄養を検討。多発性脳梗塞が誤嚥性肺炎の一因であると考えられ、肺炎が落ち着いてから胃ろうの造設を実施、退院に至った。
今後、経口摂取へと改善していきたいが、急性期病院のため、そこまで対応できないのが現状。退院後、フォローが届かず再入院の可能性もある。地域の中で、在宅でも継続できる栄養ケアシステムの確立が急がれる。
4)口腔機能向上プログラムを実施して
(昭島市高齢者在宅サービスセンター愛全園 根本 由美子氏)
今年4月の介護予防施行開始と同時に、歯科衛生士による健口体操を月2回実施。看護師・介護職による食前健口体操は毎日実施。個室で、入れ歯や口の中の状態をチェックする個別のアセスメントもしている。昼食時にはむせがないかなども観察し、食べる姿勢を整えるなど食べやすい環境作りにも配慮している。
唾液がよくでるようになった。言葉がはっきりしてきた。表情が明るくなってきた。認知症の人も症状が改善されてきたなど、効果が出ている。
5)開始時評価よりみた介護予防事業利用者像
(新潟医療福祉大学理学療法学科 牧田 光代氏)
予防事業利用者がどのような状況なのか、東京都下の事業所の利用者17名、平均年齢82.2歳を対象に調査を行った。自立支援3名、要支援1が5名、要支援2が9名。
今回は口腔ケアに関する調査は行えなかったが、運動機能は個人差が大きく全般的に低かった。また半数は栄養不足でもあり、今後は個別且つ総合的な対処が必要であると示唆される結果となった。
6)通所サービス利用者に対する栄養ケアを実施して
(昭島市高齢者在宅サービスセンター愛全園 森 瞳氏)
87歳男性(要介護1)は、急激な体重減少(3ヶ月に8.5%)が見られ高リスクであると判定し、家族に対し栄養指導を行ったが、肺炎により亡くなられた。また、89歳女性(要介護1)は浮腫のため体重が増加していたが、実際には体重減少(1ヶ月に7%)があった。栄養指導で食欲は回復していたが、脱水、うっ血性心不全にて緊急入院となった。90歳女性(要介護3)も体重減少(3ヶ月に7.3%)が見られ栄養指導に入った。本人の意欲、家族の協力、栄養ケア継続により、現状は改善傾向が見られる。
いずれのケースも短期間の体重減少は栄養状態の悪化に深く関与すると考えられ、低栄養状態の早期把握と継続的な栄養介入が非常に重要である。栄養状態を把握しにくい在宅の高齢者には、通所サービスにおける栄養ケア・マネジメントは重要な役割を果たすと痛感している。
講師の先生方が助言者となり、会場の参加者も加わり症例検討を行なった。
在宅チーム医療栄養管理研究会の研究成果でもある『在宅高齢者食事ケアガイド』は、介護保険法改正に伴い10月に改訂版が発行された。この報告とともに、「この研究会のように、多職種が集まりチームワークを発揮して、それぞれの地域の中でも前進していきましょう!」と、佐藤代表の挨拶で今年の研究会は幕を閉じた。